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技術白書:エフェクター電源に関する白書

  • 2016年9月8日
  • エフェクター
技術白書:エフェクター電源に関する白書

ギターペダル用パワーサプライの設計は、ノイズ特性とエネルギー効率のせめぎ合いでした。
大きく、効率の悪いリニア・パワーサプライ(アナログ)はノイズ特性を優先するアプリケーション用に使われ、一般的にノイズの多いスイッチング・パワーサプライ(SMPS)はサイズと効率の良さが優先されてきました。ここではこれら二つの技術と、我々strymonが完成させた『SMPSの効率とリニア・パワーサプライの性能』を合わせ持ったデザインについて説明していきます。


どうしてパワーサプライは、ノイズと効率について語られるのでしょうか?

エレキギターの出力信号は非常に微弱です。ギターアンプ、ディストーションやファズ、コンプレッサーなどのペダルは、その微弱信号をかなり増幅しています。

それらの増幅用ゲインステージは、不要な電気ノイズも増幅します。このノイズは本来の信号のダイナミックレンジを狭めてしまいます。そのため、ノイズが問題になるペダル用電源には、リニア・パワーサプライか電池が使われてきました。最近のモダンペダルでも、相変わらず低いノイズのパワーサプライにパフォーマンスを委ねる傾向は変わっていません。


リニア・パワーサプライの効率について

図2のようにリニア・レギュレータ(安定化電源用のレギュレータ)は、入力と出力の間で抵抗と同じ働きをします。この抵抗成分によって安定出力電圧を可変しています。

このプロセスにおいて、散逸パワーP = I x V(電流と電圧の積)になります。この散逸がリニア・パワーサプライの効率を大きく制限します。リニア・レギュレータ(トランスや整流のロスも含むと)のパワーロスを考慮すると、全体の効率は50%以下が典型的な数値になります。

このような50%以下の効率の電源をギターペダルに使用すると、供給パワーと同等のパワーロスがあるということです。世界の多くの地域では、このような非効率的な電源アダプターを非合法化し、効率の良いスイッチング・パワーサプライを選ぶ傾向があります。


リニア・サプライと熱の関係

効率の悪いパワーサプライにおけるエネルギー・ロスは熱に変換されます。たとえば、50%効率のパワーサプライが20Wをペダルに供給するには、20Wが熱に変換されるわけです。1Wが1ジュールの熱に変換され、環境内に放熱されます。もし、この放熱処理が適切に行われなければ、部品のオーバーヒートや発熱の安全規格、シャットダウンなど、いろいろな問題を発生します。

これら温度特性(発熱)に関する問題を回避するために、リニア・サプライは大きなヒートシンクやクーリング・ファンが必要になります。仮に、それらを閉鎖空間で使用すると、その環境内において、熱は効率的に緩和されません。また、クーリング・ファンはノイズの原因になりますし、経年に従いそれが高くなります。


リニア・サプライと旅

レギュレーション(安定化)と熱損失とのバランス…とは、リニア・サプライは限定された入力電圧レンジで動作します。これは、限定された地域のみで使用できるという意味です。実例をあげると

  • 120VAC, 60Hz for : US
  • 100VAC, 50 or 60Hz : Japan
  • 230VAC, 50Hz : Europe and Australia

パワーサプライは入力電圧が15%以下であれば、安定電源を供給してくれます。もし、US規格のパワーサプライを日本で使用すると、100VAC電源は120VACの15%以上の低下に相当するため、安定レンジを超えてしまいます。入力電圧リップルが出力に伝播します。このノイズは、ギターペダルの信号パスに、“ブーン”というノイズを引き起こします。同じ120VACサプライをヨーロッパ(230VAC)で使うと、事故が発生します。まず、トランス内部のヒューズが飛び、ほぼ2倍の電圧でオーバーヒートを起こして壊れます。

リニア・サプライには他の電圧エリアに対応できるものもあります。しかし、それは自動ではないため、スイッチを切り替えたり、ワイヤリングを変更したり、ユーザーが対処方法を実行することになります。


リニア・サプライとノイズの関係
リニア・サプライに使用されるトランスは、オーディオ帯域へ磁束漏れを起こします。ギターやペダルが、その漏れた磁束をオーディオバンドのノイズに変えてしまいます。リニア・サプライの出力自体は非常にクリーンですが、トランスのハムはwah-wahなどの感度の高いペダルに混入します。

スイッチング−モード・パワーサプライ
これまでのリニア・サプライの説明からご理解いただけると思いますが、現在ではリニアから効率の良いスイッチング−モード・パワーサプライ(SMPS)が求められるように、変わってきました。

安定化出力を得るのに消散的な要素が多い方式を使うより、高電圧トランジスタースイッチを使うSMPSの方が効率的です。このスイッチング方式は、トランジスターがonになると電流が流れますが、電圧はかかりません。Offになるとスイッチに電圧はかかりますが、電流は流れません。

また、SMPSで使う高周波トランスは、リニアの低周波トランスよりも効率が良く、小さなサイズで高いパワーを扱えます。SMPSはリニアに比べて価格が安いのですが、本来ノイズを発生しやすい機構なため設計が複雑です。高いダイナミックレンジのオーディオプロセッサー用のウルトラ・ローノイズ・タイプの設計はさらに複雑です。

ローノイズSMPSの設計
我々strymonは、リニア・サプライに同等か、それらよりも優れたサプライを設計するにあたり、SMPSのノイズを徹底的に分析しました。それらを以下で説明しましょう。

グランドループと環境ノイズ
複数機が接続されるとグランドループ(GROUND LOOP)ができます。図3.のように2台のギターペダルが単一電源で接続され、グランドループ(GROUND LOOP)ができています。

時間変化するマグネティック・フィールドは、ループにノイズに相当する電流を誘発します。グランドループを避けて、染み出す磁束帯(トランスのフラックスやライトなど)を抑制する必要があります。感度の高いオーディオ回路は、グランドループに発生する電流をハム、クリックやバズノイズに誘発するからです。

グランドループは、消費電流が多いデジタルペダルの使用では大きな問題になります。デジタルペダルはオーディオ周波数変化で消費電流が異なる(プロセッサーの)ダイナミックな消費方式がノイズに影響するのです。適切なグランド設計の優れたデザインのペダルに於いては、ノイズの多い電流は電源ケーブルから隔離されており、オーディオ回路と信号グランドから離されています。グランドループがあると、電源へ複数のグランドが存在します。この場合、一部のノイズが乗った電流は信号グランドから電源へ戻ります。信号パスにノイズが入ってくるプロセスは共通インピーダンス・カップリングとして知られています。(図4.)


我々のアイソレーション・デザイン

先の説明のノイズを防ぐために、ZumaとOjaiにはカスタムのフライバック・トランス(フライバック方式:絶縁トランスの逆起電力を利用して、蓄えられていた電力を一気に出力するという方式である。)を各出力に備えています。また、オプト・アイソレーターがトランスの2次側の信号を光によって、1次側の回路をコントロールしています。この方式によって、アイソレーション(絶縁)を妥協することなく、安定した電源が得られます。

先に説明したように、アイソレートされている出力は図のようにノイズが電源には戻りません。図5

さらに、出力トランスによるガルバーニ・アイソレーションは、各出力間の高周波絶縁に効力を発揮します。また、カスタムのコモンモード・チョークコイルを各出力に配しており、チャンネル間のカップリングと高周波除去を同時に行っています。


ディファレンシャル・ノイズ
SMPS固有のディファレンシャル・ノイズは、信号グランドに対する不要信号と定義します。そのノイズは出力へ供給されます。

ディファレンシャル・ノイズを抑制するために、幾つかの処置を行っています。第一に、スイッチング周波数はオーディオ帯域よりもさらに上の周波数を使っています。いろいろなメカニズムによって、超可聴周波数でも聴き取れるノイズを発生するからです。この高い周波数リップルが出力に到達しないようにします。これにより電源のリップル電圧を減らし、追加フィルターでさらに取り除く手法をとりました。

電圧リップルを減らすために、フライバック・トランスの後に高キャパシタンス&低インピーダンスのコンデンサーを使用しています。このコンデンサーは定期的に電流が流れたり止まったりすることで、電圧リップルの増加を最小限に抑えます。各アイソレイト出力には少しのリップルは残っていますが、ローパスフィルターで取り除かれます。

2段構成の安定化電源ステージ
十分でない安定化は、SMPSに於けるディファレンシャル・ノイズのもう一つの原因です。不十分な安定化では、レギュレータの入力にノイズが発生し、出力側でそれを増やしてしまいます。それらのノイズを低下させるために、レギュレーション(安定化回路)を2段に並べました。第1段目はAC電源(100VAC-240VAC)を24VDCにコンバートします。Ojaiではこのコンバートは外部の電源アダプター内で行います。Zumaでは本体内の出力レギュレータで行います。各第1段目では、一次側の50/60Hz周波数ノイズが除去され、クリーンな24VDCが各出力レギュレータへ送られます。各出力段のレギュレータで、さらに低い電圧にコンバートされ、ウルトラ・ローノイズのアイソレートされた出力へ送られます。

スイッチング・コントローラー
OjaiとZumaでは、スイッチング回路をコントロールする先進的なパルス幅変調 (PWM)を採用しています。不連続導通モードでの動作は、我々がデザインした電圧と負荷の変化を即座に修正する電流モードコントローラーが働きます。低雑音誤差アンプとの使用で、周波数とレギュレーション補正方式は、すべての負荷で安定動作します。また、低雑音誤差アンプはフィルターステージの前後の電圧を測定しています。

ここで使用しているコントローラーは、スイッチング周波数を高いレベルでコントロールします。これは優れたノイズ特性には欠かせません。SMPSはスイッチッング周波数をオーディオ帯域で変調する場合があります。その変調された周波数(ノイズ)はいろいろな経路で出力へ導かれます。このノイズの発生を防ぐために、固定のスイッチング周波数を用いています。さらに、回路レイアウトを工夫して、スイッチング周波数の変調による他の信号への影響を防いでいます。

コモンモード・ノイズ
SMPSの高速スイッチングはコモンモード・ノイズ(信号サイド導体とグランドサイド導体間のノイズ)を発生します。また、多くのギターペダルは、このノイズをディファレンシャル・ノイズに変えて、信号チェインでノイズを増やします。OjaiとZumaでは、ノイズソースを最小限に抑え、ノイズが電源からエフェクターへ伝達されないように設計しました。

ノイズの発生を最小限にするために、スイッチング素子のオン/オフスピードをコントロールしています。電流と電圧の変化レシオを遅くして、スイッチング機構から発生する電磁気を制限します。また、基板のレイアウトによってもノイズの発生量を最小限に押さえられました。

さらに、ノイズが出力に届かないように、(トロイダル)コモンモード・チョークコイルを各出力に使用しています。これらのチョーク・コイルは、コモンモード・ノイズを妨げディファレンシャル信号に影響を与えません。

放射ノイズ
リニア・サプライで使われるAC電源と繋ぐステップダウン・トランス、スイッチング電源用のフライバック・トランスは、両方とも磁界を発生します。スイッチング用には周波数が低いリニア用トランスより二つのアドバンテージがあります。第一に、スイッチング周波数はオーディオ帯域よりはるかに高く可聴範囲を超えていますし、優れたオーディオ機器はその帯域を除外しています(ノイズ防止のため)。第二に、低周波の放射とは異なり、導電性シールドが高周波磁気フィールドを抑制します。60Hz(ハムノイズ)の磁気フィールドは薄いアルミシャーシを通り抜けますが、高周波にはシールドとして有効に働きます。


OjaiとZumaは高い性能を実現するために、新規に設計しました。カスタムトランスやチョーク・コイルを使用し、マルチステージ・レギュレーションやフィルターデザインを開発、それらによってAC電源を自動でコンバートしながら無垢でクリーンなDC電源を作る装置を完成したのです。

それぞれのパワーサプライは出荷前に数々のオーディオテストを受けています。これらの電源は我々のギターペダルよりも厳密なオーディーテストを受けます。各チャンネル出力は異なる負荷と接続され、DC電圧とノイズがオーディオ・プレシジョンで測定されます。

細部まで行き届いたデザインと製造から生まれたOjaiとZumaは、ウルトラ・ローノイズの性能と高い効率を実現しました。それらは、軽量&コンパクトなパッケージからクリーンで有り余るパワーを用意してくれます。洗練され、シンプルな使用方法でありながら、100VAC〜 240VACのAC電源に自動対応します。ツアープレーヤー達はどこででも現地の電源が使用できるのです。最も重要な事実は、どこででも本来の機材の音を再現してくれる純粋でクリーンな電源を供給してくれることです。