TITLE

FLINT Reverb テクノロジー:技術白書 - text by Pete Celi –

  • 2012年4月12日
  • strymon
FLINT Reverb テクノロジー:技術白書 - text by Pete Celi –

クラシック・リバーブの正体?
ビンテージアンプに搭載されていたトレモロとリバーブは、ギターエフェクターの創世記を飾るに理想的なコンビネーションと言えるでしょう。strymon新機種「Flint」は、3種類のクラシック・トレモロ回路のエミュレーションと3種類のユニークなリバーブタイプを備えています。

Flintはクラシックな60年代のスプリング・リバーブ、イマジネーション溢れる70年代のプレート・リバーブ、そしてノスタルジックな80年代のホール・リバーブを用意しました。

strymonのDSPエンジニアでありサウンド・デザイナーでもあるピート・セリ(Pete Celi)は、それぞれのタイプを次のように解説しています。


3種類のクラシック・リバーブ

60年代のコンボアンプのスプリング・リバーブ
ビンテージアンプにはフルサイズの2スプリング・タンクが使われていました。そのクラシック・トーンは現在でも人気のあるサウンドです。スプリング・タンクは異なるディレイ・タイムを発生し、複雑でスムーズな残響音とリバーブ特有の周波数特性を生み出します。スプリングへの入出力には真空管回路が使用されており、そのサウンドはキャビネットの共振やブーミーな低域を削ぎ取るように調整されています。高域に関しては、短い波長の振動が伝達できないスプリングの特性によって自然に減衰します。

《資料》スプリング・タンクのブロック図

ドライブ回路から送られた信号が、スプリング・タンクの入力トランスの1次コイルをドライブします。それによって発生した磁気が2次コイルを経てスプリングを振動させます。波長が長い低域信号は、スプリング内を高域よりも速く伝わります。このセオリーにより、パーカッシブなアタックに対して、『ボィーン』と独特のスプリングサウンドがリバーブ(残響音)に混じります。スプリングの終端では、コイル、磁石、信号復元回路によって、信号は逆の工程で電気信号へ復元されます。また、信号は復元後もスプリング中で往復を繰り返し、スプリング独特の周波数が変化するディレイがスムーズな残響音を作り出します。リバーブの残響の長さは「ディケイ・タイム」として知られています。そのディケイタイムは、スプリングに取り付けられたダンパーで調節されます。

2スプリングのタンクは、低いミックス・レベルで音に深さと広がりを加えます。総じて、コンボアンプに搭載されている2スプリングのリバーブは、強烈で破壊的なリバーブサウンドを生み出す3スプリング・リバーブと比べて「ハネる感じ」や「ざわつき」が少なく、最大ミックス・レベルにしても柔らかで纏まったリバーブサウンドが特徴です。


70年代のエレクトロニック・リバーブ
1970年代に入ると、高いクオリティーでリアルタイムのエレクトロニック・リバーブを作り出すことができるデジタル・エレクトロニック・システムが登場しました。シングル・メモリー・チップは1024bitのメモリーが可能になり、当時無限の可能性を秘めていました。初期に作られた最も有名なエレクトロニック・リバーブは、プレート・リバーブタイプで$20,000程度、80個のメモリー・チップが使用されていました。この驚異のハードウェアは、マルチディレイラインをパラレル配列したアルゴリズムで、各ディレイには複数の出力があり、フィルター信号が入力に帰還されていました。

《資料》簡単なエレクトロニック・プレート・リバーブの回路図

ディレイ・ラインの長さと各出力タップは最大限自然な残響音を生み出す為、数学的に計算されていました。また、リバーブのアルゴリズムは、不協レゾナンスを減らし、奥行きを加える為に、内部でリフレクション(はじめにはね返ってくる音)の位相操作が行われていました。その結果、複数のパラレル出力タップによる密度の高い残響を短い時間(ディケイ)で素早く作り出すことができ、リッチでスムーズなサウンドが得られました。


80年代のホール・スタジオラック・リバーブ
80年代終盤には、デジタルICとマイクロプロセッサーを使用した、低価格のデジタル・リバーブが多く作られました。これらのデジタル・リバーブは、様々なアルゴリズムの動作やプリセットの保存、より詳細なパラメーターのエディットが可能でした。価格に敏感で限定された処理能力から「最低限のコンピューター処理と低メモリー量」で必要なアルゴリズムを開発することに大きく貢献しました。また、ホール・スタイルのリバーブの製作するにあたり、繰り返し使われた手法でアーリー・リフレクション部が作られ、その後に発生する残響音をアーリー・リフレクションから生み出す音源として使われました。

《資料》簡単なエレクトロニック・プレート・リバーブの回路図

シンプルなマルチタップ・ディレイ・ラインは、アーリー・リフレクションを作るのに充分な性能を持ち合わせていました。その後に続く残響音は、ディレイの「直列ループ」と全帯域パス・フィルター、そしてローパス・フィルターを図のように組み合わせて作り出すことに成功しました。入力信号はループの複数箇所に挿入することができ、出力部はループの複数箇所の信号をミックスすることが可能です。ディレイ・ラインの変調は「人工臭さ」を排除して、よりスムーズで自然な残響音を作り出す為です。ホールリバーブは、アーリー・リフレクションの後に、ゆっくりと積み上げられて行く密度の高い残響音で構成されています。このモジュレーションが温かみと深みを加味します。


FLINTの世界へ

FLINTの3種類のリバーブは、クラシックなリバーブ・サウンドを忠実に再現しています。特定のリバーブ機の再現に捕われず、60年代、70年代、80年代を代表するリバーブタイプのサウンドをここに導き出しました。


Text by Pete Celi - 主な経歴 –

1985 – 1988:Analog Devices Product/Test Development Eng 1989 – 2000:ALESIS R&D Design Engineer 2000 – 2004:LINE 6 DSP Designer 2004 -:Damage Control Engineering DSP & Sound Design