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ギタリスト 増崎孝司 氏が語る El Capistan レビュー

  • 2013年11月13日
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ギタリスト 増崎孝司 氏が語る El Capistan レビュー

増崎さんの所属する「ディメンション」は、’92年の結成から実に26枚ものアルバムをリリースしてきた、日本を代表するインストゥルメンタル・グループです。ジャズ、フュージョン、ロック等のエッセンスが複雑かつスタイリッシュに絡み合うその楽曲は、TVやCM等で非常に多く使用されており、きっと耳にしたことがある方も多いと思います。

ギターを担当する増崎さんは、メンバーそれぞれがセッション・ミュージシャンとして幅広い活動をしているディメンションの中でも、浜田麻里さんのサポート・ギタリスト(’87〜)や、近藤房之助さん率いる「B.B.クイーンズ」への参加でも知られています。

今回は、増崎さんのエフェクト・ボードにEl CapistanとFLINTを採用していただいたご縁もあって、その感想や機材選びに対するこだわりを伺ってきました!

— まずは、strymonを使い始めた経緯や感想などを教えてください。

去年から自分のエフェクト・システムをもう1回見直そう、自分にとってベストなものを自分に与えようと思い、ボードを組み直しました。過去に作ったラック・システムで、自分の「ツール」は完成しているつもりでした。でも、本当にこれからの自分が大きいラックを持ち歩くような活動をするだろうか考えてたんです。自分がそれだけの物を持ち歩く体力も、スペース的な余裕も、心の余裕も無いなと。むしろ、そこに頼っている自分が嫌だと言う気持ちすらありました。そこで、まず一番ギターの音を豊かに聞かせる空間系で、自分が本当に望んでいる物は何かと探し始めました。それはすぐに見つかりました。それがstrymonでした。もちろん機種をFlintにするのかEl Capistanにするのかと言う、決めた中での悩みはありましたが。

「自分の手足で瞬時にコントロールしたい」「なるべく小さなボードに収めたい」……それが今回のペダルボードのコンセプトでした。まず歪みの段階を1~4段階で作りました。そして、このペダルボードの核になったのは、確実にEl Capistanです。自分が理想とする奥行き感が、これ1台で出せています。「ディレイでこれだけ奥行き感が出るのか」と、自分も使ってビックリしました。

El Capistan の好きなところ、他のディレイと比べてどうですか?

プレイヤーの感覚に一番近いとか、簡単に効果が取り出せるとか、良い要素がいっぱいあるんですけど、一言で簡単に言うと「雰囲気がイイ」んですよ。操作性も音も含めて「良い雰囲気」が出るんですよ、strymonは。

EventideやLexiconなど色々なディレイを使ってきましたけど、「ディレイ」とは何を持ってして「良いディレイ」かと言うところから入ると、僕は必ずしも再現性が高い、ハイ・フリーケンシー再生されるものが「良いディレイ」とは思わないんです。自然な「やまびこ効果」が出るかなんです。自分が自然界で聞いてる「エコー」って、段々ハイが落ちてきて、段々聞こえなくなる、自然に溶けていくものなんですよ。単に反復音を出すだけならプラグインでも出来るし、音の厚みさえ求めなければディレイは世の中にいくらでも存在すると思うのですが、僕はやっぱり広がっていくディレイじゃないと嫌だったんです。

僕にとって理想のディレイは「広がっていて行って、勝手に消えていく」感覚。
他のディレイはマシンで換算してるものだから「残る」んですよね、「ここまで残るなよ」ってディレイはいらなかったんです。 自分が思い描いていた「指の中での響きで消えていくディレイ」、El Capistanにはそれが出ている。後から聞いたら、El Capistanはテープエコーと言うヴィンテージ・エフェクターの復刻という感性で作られたようなので、何bitとか数値だけに重きを置いている人にはお勧めできないですけど、「どうやったら増崎みたいな音が出るんだろう?」って疑問が半分くらい解消できちゃうツールではありますね。本当は、TCの2150とかTri Chorusとかみたいに(他の機種には出せないフィーリングが)エグイんで、「ストライモンだよね」って、すぐに分かっちゃうんですよ。でも「雰囲気」があるから仕方ないんです。 「雰囲気」だけでstrymonを選んでも、全く損はないと思いますね。

新しいボードには、FLINTも採用されていますね。

FLINTは僕の中では「ヴィンテージ・トレモロと、軽い60‘sリバーブの組み合わせ」と言う、2つの完全に似て非なるものだと思っています。ただの「ヴィンテージ・アンプから取り出した物」ではなくて、本当にブランニューな感覚。これからの自分を構築する上で、FLINTがないともうダメですね。言い切りますけど、「自分の指に一番近い感覚で答えてくれるエフェクター」です。

増崎さんのようなサウンドを出すために、ディレイの使い方にも工夫はありますか?

レコーディングの時には、よほどエンジニアの方が「すみません、自分でもう少しいじりたいんで」と言わない限り、僕はディレイを掛け録りしちゃいますね。たいていマイクに乗せた場合のエフェクト音って聞こえにくくなるんですが、マイキングを調整するとエンジニアがミキサーでかけるより、自分で掛けた方が良いなと思います。これはエンジニアからも言われます。

ミキサー上で掛けると綺麗なんだけど、浮いて聞こえてしまうんですよ。要するに平面状には広がるので、皆さんの前にL-Rが本当に180度の世界が広がってるとしたら、180度まで広がるんです。でも奥にいかないんです。だから「掛け録ってください」って言われます。掛け録ることによって奥に逃がす事ができるんですよね。遠くなる事を悪く言う人もいますけど、「遠い」と言う事は「奥に行っている」と言う事なので。それで音が小さく聞こえるなら音量を上げれば良い話なんで。

ギターアンプとマイクの間に空間を作ると、そこに奥行きが出来るのと同じ感覚です。結局、その間で空間系のエフェクターを鳴らして1つのマイクで拾うかって事で、奥の厚みが出てくるので。後からミキサーで掛けると確かに綺麗には広がるんですが、「ディレイってそう言うものじゃないんだよ」と。

昔のレコードやパット・メセニーを聞くと、いわゆるアナログ・エコーみたいな感じで完全に掛け録ってる音なんですよ。それが彼の音の一部になっていますね。やっぱりディレイってのは、各プレイヤーの音の一部になりえるものなので、こだわりはありますね。

ラックシステムからペダルボードに変更して不自由なことはありましたか?

僕は複数台のラック機材を使ってますけど、実はどれもMIDIで動かしてないんです。 1個から1個の音色しか取り出していないんです。50万円の中の3000円分しか使ってないなんて非常に贅沢な使い方ですね(笑)

僕はMIDIで遅れたりとかプレイ・アビリティーを邪魔するものは一切排除したいんです。自分が思い描いたアイディアが浮かんだ時に、ラック機材のページをめくって探したくないんです。その場でパッと操作したいじゃないですか。今使っているエフェクト・ボードは、使っていたラック機器が足元に来ているだけなんです。クオリティーは、むしろアップデートされているくらい。

今までの僕の使っていたエフェクターは、もちろん今でも好きですけど……例えば、LexiconのPCM81では「エコー・リバーブ」でプリセットしてEl Capistanと同様の効果を出していたんです。効果が同じならペダル型の方が小さくて良いですよね。


これから、機材選びをするギタリストへアドバイスをお願いします。

これは、何が自分にとって「良い物」かを自分の耳で確かめるしかないんですよね。 音作りの順番としては、まずギターとアンプ(もしくは歪みを入れた状態)で「一番好きな音」を作ります。それから間に挟む一番大切な空間系を決めるべきだと思います。その後にコーラスだのを決めます。手前(エフェクター)から決めて最終的にアンプを決めたりすると、グチャグチャになることが多いです。「まずは使う楽器、ピックアップ、弾き方に合ったギターアンプがあって、それに合った空間系を足していきましょう」と言う決め方をしないと、あっちもこっちもになってしまいますね。

あと、楽器やツールを選ぶというのは、いかに人に左右されながら選んでるかが分かりますよね。自分の耳で選ぶというのは、やっぱ難しいと思うんです。色々な情報があって、視覚的な情報もあって……例えば雑誌で「このアーティストは、このアンプを使ってる」って書いてあるじゃないですか。僕なんかこう言う性格なんで「嘘だろ」って思って見ちゃうんですけど(笑)。今は昔と違ってリアルな情報が出て来るようになったけど、昔は裏にアンプが隠されていて本当のマイクはそれに立てられていたり、Marshallって書いてあってもスピーカー・ユニットが全然違ったりと、事実を知って驚くこともありましたから(笑)。

仰るように「自分の耳を持つ」って重要ですよね。具体的にはどのようにすれば良いですか?

まずは、入口か出口のどっちかを固定することだと思います。 よく音作りで困ってるミュージシャンから相談されると「入口を変えるの? 出口を変えるの?」って僕は聞くんです。彼らは入口も出口も同時に変えようとするんです。どっちかを固定しないと。まず「聞く部分」だけは自分が信頼している、好きな音がしている物を探すよう言うんです。そうじゃないと、「このモニターで聞いてるんだったら、ここをこうした方が良いんじゃない?」と言えないですから。「良い音の定義」は1人ずつ違うのは当然なんですが、せめて「聞く部分」は自分の好きな物で固定して欲しいなと思いますね。

例えば新型iPodの発売の時なんかも、自分が本当に好きなイヤフォンを持って行って試聴すべきだと思います。自分の信頼する物は常に自分の身の回りに置いておいて、それを基準に本当に良いか悪いか判断するべきだと思います。だからYoutubeを見るときも、自分が信頼しているイヤフォンや環境で聞いて、strymonでも何でもチェックするのが良いと思います。その時に初めて「この機材は、こう言う音がしているんだ」と分かるんじゃないかな。最近では、Youtubeなどサウンドを聞く手段は色々あるけれど、それを確かめに楽器屋に行こうよ!って思いますね。そうしているうちに答えはすぐ見つかってくると思います。楽器屋さんに行く人って、僕も含めてなんですが、何かを探してる人や、何かを足したい人だと思うんです。自分が満たされている時には、楽器屋さんに行かないじゃないですか。妥協せず、隅から隅まで試して欲しいですね。

まず1回は自分で確かめてみて、「(増崎の言ってることは)本当だ」って思った時に僕の言葉を信じてもらって「あいつがそう言ってるんだったら(他の機材も)試してみようかなって」思ってもらえれば良いと思います。単純に僕のインタビューの内容だけを見て考えるよりも「探す旅」がずっと面白くなると思いますよ!

増崎さんご自身も、かなり遠回りはされたんですか?

ええ(笑)。自分の好きな音を探すのに余計な道を通りましたね。 僕もそうだったので若いミュージシャンに言うんですが、楽器を選ぶ時は「色々な物が入っている物」を選ぶと後悔するからと。

結局、遠回りになってしまうんです。どの機材にも良い部分は入ってるんですが、それを見つけられずに終わってしまう可能性があるんです。「これとこれを複合させた時の掛かり具合をどうするか」って考えてるんだったら、2個違う物を買う方が良いと思います。

今は「1つのパッケージに色々な物を」という「足し算」の価値観になってきてるんですよね。それは僕も嫌いじゃないし、それが技術の進歩の証だと思うんですけど、敢えてここまで物が揃った時代にそう言う物を選ぶよりも、自分の指と同じ感覚で「この5本の指をどれに宛がおうか」と言う感覚で選ぶ方が、僕は一番「近道」なんじゃないかと思います。「色々なことが出来るぞ」って逃げ場を作らないことが、よりシンプルに、ストレートに自分の表現ができると思うし、結局それが「近道」だと思います。

strymonを使い始めて一番思ったのが、strymonは「なんでも出来ますよ」って言ってないのが良いんですよ。「ボクはこれをやる。それ以外のことはできないけど。」と言う考え方は、僕の今までのエフェクターの選び方と全く一緒なんです。複合エフェクターの良さも分かりますけど、そこに入っている何種類ものエフェクトをエディットする時間を、1つの物に充てられるというメリットはあると思います。これから使う人には、そこを考えて欲しいですね。

例えば「リバーブって本当に必要ですか?」って。 「僕はサーフミュージックやってるからリバーブが無いとダメなんです」というミュージシャンがいらっしゃったら、じゃあFLINTは試してもらいたいなと。だからこそ「それはそれ専門のツールに任せます」と言う考え方の方が、僕は割り切れると思うし。プロ・アマ問わず、自分の好きな音を探すのに余計な道を通って欲しくないなと。

ディレイに関しても、「ディレイはこれで良いと思う」「所詮リピートの音だぜ」みたいな事を言う人もいますが、じゃあ世の中のCDでディレイやリバーブの無い音楽はつまらないだろうって思いません? 音は「奥行き」が重要なんです。いかにして「奥行き」を出したら良いかを、どれだけのミュージシャンが考えているか。そこにスポットを当てると、選ぶツールと言うのは見えてきますよね。僕はそう言う意味でEl Capistanは一押しできますね。奥行きがあるし、スピーディーだし、使いやすいし。その効果と、自分のイメージしている音が一致するんですよね。

いかに触ってスグに狙った効果が得られるか、それを「エフェクターを選ぶ1つの理由」にして良いと思うんです。 strymonは、殆どがプレイヤーの立場に立って作られていて、そう言う部分が簡単に取り出せるんで、それは凄いなと本当に思います。しかもハイクオリティーなので。ロークオリティーだったら、こんなに僕は言わないです(笑)。
まぁ、敢えて難を言うなら、ボードにしまった時にツマミが当たって動いてしまうことかな(笑)。


増崎孝司 / Takashi Masuzaki
1962年12月8日うまれ
長崎県出身、O型

80年代中期にプロとして活動を始め、これまでに数多くのアーティストのライブサポートやレコーディングに参加する。1991年『Speaks』、翌年『Escape』のソロアルバム発表。1992年にDIMENSION結成。以降リーダーをつとめる。個性ある音作りと柔軟なギターワークには定評があり、スティーブルカサー(TOTO)やラリー・カールトンとも親交を深めている。2003年にはギタリスト矢堀孝一氏とのコラボレイトアルバム『月』をリリース。2005年はB’z松本孝弘のレーベル『House Of Strings』より発売された、映画音楽をギターミュージックで綴ったAL『Theatre Of Strings』に参加。老若男女、ジャンルを問わず幅広いギタープレイをスタイルに持つ。最近は『かとうあすか』などの若手Jazzシンガーのサウンドプロデュースも手掛ける。


最新アルバム:DIMENSION「26」
ZACL-9066

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