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DIG:技術白書

  • 2015年5月19日
  • strymon
DIG:技術白書

1970年代後期、集積回路技術はLSI(大規模集積回路)のレベルに到達し、手頃な価格で大容量のデジタル・メモリーチップが入手できるようになりました。このメモリーチップの普及は、磁気やアナログ・テクノロジーの欠点だった信号劣化の改善や、脚色されずに出力できるデジタルディレイを現実のものにしたのです。

では、この進歩によって世に送り出されたデジタルディレイのサウンドの違いは、どこから生まれたのでしょう?何が、それぞれのデジタルディレイに独自の個性を与えたのでしょうか?デジタルディレイは、全て同じ音が出るのではないのでしょうか?

これら初期のデジタルディレイに於いて、その個性を生み出す要素はメモリーチップではありませんでした。信号をアナログからデジタルに変換した方式(または、デジタル→アナログ)が影響を与えていたのです。各変換方式では、音質を向上させるために用いられる補正回路が異なり、それが音質の違いに表れたと思われます。 では、初期ラック型デジタルディレイに見られる技術の違いを見ていきましょう。


DIG:技術白書 その1 変換技術

ADM(Adaptive Delta Modulation/アダプティブ・デルタ・モジュレーション
ADMは、遠距離通信で用いられた音声変換技術「デルタ・モジュレーション」の発展系です。デルタ・モジュレーションは、アナログ信号を1ビットのデジタル信号に変換し、各サンプルポイントで固定値のスロープに沿った近似値を割り当てます。入力信号がスロープの再現値よりも大きい場合には「1」、小さい場合には「0」に振り分けられます。

この方式は、遠距離通信に於ける声の帯域レベルなら良いのですが、フルレンジのオーディオ信号では十分とは言えないでしょう。高い周波数(& or)高いトランジェント入力信号は、『スロープ・オーバーロード』を起こしてしまい、遅い立ち上がりと減衰、高い歪みを出力側に発生します。図から解るように、後半部の信号の細部は再現されず、トランジェントのピークは正しく再現されていません。

AMDの『アダプティブ』パートは、より正確な入力信号の変化への追従を意味します。トランジェント信号への追従を改善し、ザラザラしたノイズを軽減します。次のグラフAdaptive Delta Modulationからも読み取れますが、より細かなステップ変換を用い、スロープのオーバーロードを検知すると、大きなステップを適応しています。デジタルコードでもハイライトされているように、「1」「0」の割り当てが続いています。実際のADMのアリゴリズムはきわめて複雑で、トランジェントへの反応やノイズレベルも改善されています。

他の重要な見地はクロックスピードまたはサンプルレートです。(250kHzまたはそれ以上) 図中に描かれたサンプルより実際の精度は高く、再現精度はすばらしく改良されていました。この変換テクニックの魅力は、モノシリックICコンバーター・チップを使わずに比較的安価にデザインできた点でしょう。トランジェントと高い周波数のトラッキング、ノイズ特性のバランスをとることが課題でした。

12 Bit PCM
モノシリックDAC(ADコンバーター)チップの出現で、良いオーディオスペックを比較的安価に実現できるようになりました。この変換方式は信号のダイナミクスや周波数には影響を受けませんが、コンバーターのビット長とサンプルレートによって、サウンドクオリティーが決まります。サンプルレートが最も低い周波数にセットされ、(この例では32kHz)メモリー最大限のディレイタイムが設定されました。12bitのビット長はかなり高いレベルのオーディオパフォーマンスが得られました。

信号の振幅幅は、ビット長ベースのステップで量子化されます。図の例は4bitシステムですから16ステップのバリューで量子化されています。また、ビット長がノイズレベルも決定し、量子化ノイズは変換時に発生します。最大再生周波数はサンプリングレートで決定され、レートの半分が限界値です。このPCMのソルーションが魅力的な理由は、オーディオ変換のパフォーマンスがチューニングやアルゴリズムに依存していない点でしょう。


技術白書 その2:補正回路

より高いサウンドクオリティーやディレイの音質を実現するために、補正回路の選択が重要な要素でした。

ADM
ADM方式での補正回路は、次の様にデザインされています。トランジェント信号のリミッティング、低レベル信号で混在するノイズを低減させること。デジタル変換の前にリミッターを入れることによって、入力信号のトランジェントを抑えることができ、スロープのオーバーロードを減らすことができます。

除去するのが難しいザラザラしたノイズは、変換前にプリ–エンファシスEQでハイをブーストし、変換後ディ–エンファシスでハイを下げてフラットに戻す方法で対処します。

図:ADMのブロックダイヤグラム

音質
ADMアルゴリズムで低いレベルの信号で高い音質のリピートを得るには、高いレベルで高い周波数の入力の音質を下げることがその特徴です。このハードウェアの設計は、トランジェントアタックのパーカッシブな特徴をリミッターで若干太くして、ADMプロセス色づけしているわけです。さらに、これがダイナミックな入力信号に深みを与え、素晴らしいリズミックなディレイの特徴を生み出しているわけです。

DIGでは、ADM変換方式の特徴は1bit/500KHzのA/D→Delay→D/Aプロセス中で生まれ保たれます。リミッティング、プリ−エンファシスやディ–エンファシスは、32bitフローティングプロセス(96kサンプリング)で再現されます。

12 Bit PCM
PCMシステムで最善のパフォーマンスを得るために、量子化ノイズを最小限にするよう、入力信号を可能な限り高く保つ必要があります。これは、コンパンディング・システムで行われ、変換の前に信号のダイナミクスがコンプレスされます。デジタルディレイ信号がアナログに変換される時、エクスパンダーが小さな信号を通常レベルに戻す際にノイズフロアを下げる働きをします。さらなる音質の改善のためにプリ–エンファシス/ディ–エンファシスが採用されています。

図:12 Bit PCMのブロックダイヤグラム

音質
変換のプロセスと補正回路によって、ウォームでスペース感のあるディレイサウンドが得られます。ディレイは繰り返されると、だんだんソフトでアンビエントに溢れるサウンドに変わっていきます。

DIGでは、PCM変換方式の特徴は、12-bit/32kHzのA/D→Delay→D/Aプロセス・ブロックで生まれ保たれます。プリ−エンファシス、コンプレッション、ディ–エンファシスは、32bitフローティングプロセス(96kサンプリング)で再現されます。

21世紀
初期のデジタルディレイが発売されてから、数十年が経ちました。集積回路のスケールや精度、A/D/A変換技術は飛躍的に進化しました。24bitのコンバーターは十分安価になり、オーディオスペックは初期よりも100倍も良くなりました。

これで、デジタルディレイの製作に、デジタル変換に補正回路を追加する必要がなくなりました。これは信号の再生面で歓迎すべきポイントですし、以前のテクノロジーやそれらの個性の再現を可能にしてくれました。24/96のアルゴリズムはハイレゾ変換を用いて、入力信号を再現するようなデジタルディレイが完成できました。ディレイ音はドライ信号とのミックスを良くするために、微妙なダイナミクスをコントロールするブロックを加えています。全ての内部プロセッシングは32bitフローティングプロセス(96kサンプリング)で実行されています。

図:24/96のブロックダイヤグラム

技術白書 その3:デュアル・ディレイ構造

DIGは2台のステレオ・ディレイで構成されており、リズミック・ディレイやアンビエント・ディレイなどが可能です。ディレイ2はディレイ1のシンクロしたサブデビジョンにディフォルト設定されていますが、必要に応じてそれを外して感覚的に設定することもできます。下記の3つの接続方法によって、さらにその可能性は広がります。

シリーズ
図のように、信号はディレイ2(リズミック・サブディレイ)からディレイ1に接続されます。この接続は2台のディレイペダルを繫いだ時と同じです。モノ入力がLR両チャンネルに供給されます。

パラレル
このモードは、ディレイ同士はLRで切り離されており、LRそれぞれに出力されます。ステレオ時は、ディレイ1がLチャンネル、ディレイ2がRチャンネル、それぞれに出力されます。モノラル出力(LEFT出力のみ使用)時には、エフェクト信号が合わされて出力から両方のディレイが聴こえます。

PING PONG(ピンポン)
2台のディレイが、直列『ピンポン』接続されます。 モノラル出力時には、SERIES(シリーズ)と同じ効果になります。ステレオ出力時は、リピートがL&Rにクロスフィードされ、Mixを上げるとLRの動きがあるディレイパターンが生まれます。


結論

DIG:デュアル・ディレイ構造、フレキシブルなルーティング、クラシックなデジタルディレイのボイシングは、膨大な音色のバリエーションを実現しました。