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DECO:技術白書

  • 2014年9月26日
  • strymon
DECO:技術白書

Tape:the first effect
我々の探究心溢れる旅は、50〜60年代のレコーディングスタジオから始まります。リールテープマシンの登場が、サウンドの想像力とファットなサウンドをエンジニア達に届けてくれました。このマシーンが、本当に初期のエフェクト・ペダルだと言えるかもしれません。例えそれが貴方のペダルボードに収まらないとしても…

ウォームで官能的で気持ちよいテープサチュレーション… それは、我々に 「忘れられかけたアートとも言える、マシーンの使い方」を思い出させてくれました。リールテープマシーンは、美しく、特有の包み込むような幅広いサウンドをクリエイトすることが可能なのです。

モダンレコーディング創世記のジャイアント・ウェーブ
Decoは我々のインスピレーションの起源とも言えるヴィンテージ・テープエフェクトを、創世記のモダンレコーディングスタジオから、貴方のペダルボードへ届けてくれました。

Decoのテープサチュレーションは、テープコンプレッションと、薄く透明感のあるテープ・オーバードライブで、サウンドを太くスムーズに仕上げてくれます。Doubledeckerは、甘いスラップバックのテープエコー、サイケデリックなテープフランジング、ゴージャスなテープ・コーラスサウンドへと、貴方のサウンドを様々な素晴らしいエフェクトへと誘います。


DECO:技術白書 その1

創世記のモダン・レコーディングへと回帰する旅
探究の旅は創世記のモダンレコーディング・スタジオから始まりました。オープンリール・テープデッキの登場と、それを使いこなしたクリエイティブなエンジニア達は、この上ない ファットなサウンドを届けてくれました。ウォームで官能的で気持ちのよいテープサチュレーション… それは、我々に「忘れられかけたアートとも言える、マシーンの使い方」を思い出させてくれました。リールテープマシーンは、美しく、特有の包み込むような幅広いサウンドをクリエイトすることが可能なのです。

このプロジェクトは、テクノロジー、メカニクスやその使用方法のリサーチからスタートしました。その過程において、我々はこのマシーンが最初のエフェクトペダルであることを改めて認識しました。(勿論、ペダルボードには収まりませんが….)

このリサーチの結果、我々はDeco (テープサチュレーション&ダブルトラッキング エフェクトベダル)を生み出しました。下記の内容は、我々のサウンド・デザイナーでもあり、DSPエンジニアでもあるPete Ceilが、リサーチの結果とデザインプロセスを記述したものです。

スタジオテープマシーンのダイナミクスとダブルトラッキングの技術的な解説
オープンリールのミキシングとマスタリングテープデッキ特有のウォームなサウンドは、今でも高評価されています。トラックメイ キングの中では、「ファットで」「芳醇な」「パンチの効いた」等の言葉で表現されます。録音/再生のプロセスに於いて、テープが本来持つ特性として、「レベルと周波数によって固有の反応を起こすこと」が挙げられます。この特性により、素晴らしい透明感をローレベルでも保持し、高域の尖ったサウンドを抑え、倍音豊かなローエンドを実現してくれます。更に2つのテープデッキを同期させることによって、上記の効果を含めた様々な音色の強調的効果を録音/再生時にもたらしてくれます。

歴史
1950年〜1960年代に開発されたプロフェッショナル仕様のオープンリールデッキは、ハイファイで全帯域に渡り正確な録音再生ができるように開発されました。USおけるNAB、ヨーロッパのCCIRの録音スタンダードは、録音/再生のプロセスにおいて最小の歪み率を全体域においてフラット特性で実現することでした。このスタンダードを基にすると、テープマシーンがサウンドへのカラーを施す機会は多く無いように受け取れます。しかしながら、音は様々な要素により加工され、結果的にダイナミックEQとサチュレーション効果が施されたサウンドに生まれ変わるのです。

録音/再生におけるイコライゼーション
録音/再生に於ける全体の工程ではフラットなレスポンスを保っていますが、個々の録音/再生ではフラットなサウンドからは程遠い、という事実を説明して行きましょう。テープの磁気特性、消磁効果により、高域はレコーディング中においても減衰します。プレイバック時には、テープスピードに依存する「ヘッドギャップ」効果で、さらに信号損失が高域のロールオフに表れます。「ヘッドバンプ」と呼ばれる効果により低域が強調されて再生されます。この効果はテープ幅により変化します。では、どのようにすればフラットな周波数レスポンスが得られるのでしょうか。答えはEQプロセスによるプリ・エンファシスとディ・エンファシスです。

プレイバックヘッドでの高域ロールオフは、プレイバックアンプ部でのイコライジング処理で補正されます。プレイバックとレコーディングプロセスによる高域ロスを保持する為に、録音される前に予め高域がブーストされます。このレコーディングヘッドによるイコライジングをプリ・エンファシス、プレイバックヘッドによるイコライジングをディ・エンファシスと呼びます。録音時には高域がブーストされ(テープ+プリエンファシス)、再生時には同じ帯域がカットされます(テープ+ディ・エンファシス)。これによりテープのヒスノイズを減少できる効果を生み出せると同時に、NAB規格では低域もブースト/カットされ、メカニカルノイズや様々な電源部が原因のハムノイズを抑えることができるのです。下記のグラフはそれぞれの周波数特性をグラフにしたものです。

図1:録音時(Recorded)、再生時(Playback)の周波数特性の変化

さらに、60年代半ばからノイズリダクション回路が導入されました。これにより、録音時に様々な周波数がブーストされ、再生時にそれらの帯域がダイナミック・リダクションされる方式で、テープヒスノイズが減少しました。基本的な概念は、信号を記録する前にブーストし、その後カットすることにより、SN比を向上させるということです。


技術白書 その2:サチュレーション

テープ・メディアにおける「サチュレーション」とは?

テープ・サチュレーション特性は、テープの特性、バイアス信号、テープ幅等、他の様々な要素も相まって決定されます。3次倍音歪みは、ピークレベル時(基準値より+6dB)の3%を超えてはならないと、1965年NAB規格で定められています。勿論、NAB規格が目指すところは音響的に正確な録音再生システムであり、3%の倍音歪みが発生していたとしても、それは非常に「クリーン」な録音再生状態に変わりありません。S/N比が良い状態のパフォーマンスは、録音信号をクリッピングさせずに、可能な限り高いレベルを保ちながら録音することが求められます。収録される音のダイナミクスによりますが、トランジェント信号のピークは、3%以上のディストーションになることがあります。では、VUメーターがレッドゾーンにまで振り切った時、どのような状況が起こるのでしょうか?

通常のテープオペレーションでは、3次倍音歪みが僅かに付加されることにより、テープ独特のウォームな質感がローエンドに加わります。3次倍音は録音レベルが上昇するに従って増大し、ローからミドルにかけて音の太さが加わります。更に、録音信号レベルが高くなると高次奇数倍音も付加され、クリッピングは増大します。高域信号(プリ・エンファシスカーブによる高域はブーストされています)はリミッティングされます。この歪み成分は可聴範囲を超えており、再生時には全高調波歪の一因になります。テープ・サチュレーションと共に、トランスや真空管などの信号経路中の部品も、信号がハードにドライブされると音のキャラクターに影響を与えます。では、これら全てを総合するとどのような変化が表れるのでしょうか?

Pre-Emphasis + Saturation + De-Emphasis = Dynamic Fatness

これが「マジック」の起こるポイントです。コンプレッションとサチュレーションが無い状態(シグナル、レコーディングレベル、もしくは双方共に低いレベルの場合)は、プリ・エンファシスとディ・エンファシスは入力信号の周波数も振幅にも影響を与えません。しかし、テープがサチュレート状態(トランジェントがピークに達した状態、もしくは録音レベルが非常に高い状態)になると、プリ・エンファシスの高域ブーストはテープに記録出来ず、その高域は減少します。結果的にフラットな周波数特性のまま、信号はテープに記録されます。プレイバック時にはディ・エンファシスカーブが適用される為、高域は緩やかに減衰し、結果的に高域がロールオフされたサウンドとなります。

ディレイタイムは、録音と再生のデッキのヘッド間の距離で決まっていました。しかし、多くのデッキは1/2の速度で再生するオプション機能を備えていた為、テープの速度を遅くしてディレイタイムを倍にする事も可能でした。

2台目のエコー用デッキ(LAG DECK)の位相を反転すると、僅かに低域のレスポンスに変化が起きます。この方法は一部の使い方でよりナチュラルなサウンドを生み出します。

図2a:入力レベルによる周波数スペクトラムの比較
図2b:テープに記録された信号の比較 (青の点線:プリ・エンファシスEQが施された状態)
図2c:プレイバックプロセス後の周波数特性

サウンド面から見ると、ギターのピッキングやストラミングのトランジェント等の不快な高域のピークがマイルドになるだけではなく、テープ・サチュレーションやコンプレッションによるダイナミクスのリミッティング効果が付加されます。同様に、周波数リミッティングが再生時にも働きます。低周波数帯の3次倍音が、僅かながら効果的に付加されることにより、パンチと豊かさが加えられます。録音レベルを上げると、この効果が上がりダイナミクス豊かな演奏につながります。


技術白書 その3:空間系・モジュレーション

スラップバック・エコー
スタジオで実際に行われていた方法: まず、図のように2台のデッキに同じ信号が送られます。1台目のデッキ(RECORING DECK)に、入力信号と2台目のデッキ(ECHO DECK)の再生信号を、同時に録音します。この2台のテープスピードの差がディレイタイムになります。この手法により、スタジオでボーカルやギターを録音する際に、リアルタイムのディレイ・エフェクトとして使いながら録音していた訳です。

スルー・ゼロ・フランジングとコム-フィルタリング
スタジオで実際に行われていた方法: オリジナル信号は録音された後、再生され2台目のデッキ入力へシンク信号(レコードヘッド出力)として送られます。両デッキの再生音がミックスされ、2台目のデッキ(LAG DECK)の再生速度を速くしたり遅くしたりして(スイーピング)、2台間の時間差が無くなった時にドラマチックなコムフィルター効果が生まれます。

テープ・フランジィングは、1台目の出力から2台目の入力に送られる間にタイムラグが発生することを利用するため、ライブパフォーマンスで使用できる「リアルタイム・エフェクト」ではありませんでした。 2台のデッキの間に、一定のタイムラグを持たせて再生することで、薄いコムフィルター効果が得られます。

スルーゼロ・フランジィングは、主にフルレンジのミックスに使用されます。高い周波数はコムフィルターで強調されます。これはタイムラグが「ゼロ」の状態で起こり、そのサウンドは深く歪んだギターサウンドに最適です。

もう1つの方法は、2台目のLAGデッキの位相を反転させます。すると、タイムラグが「ゼロ」に近づくと、信号は増幅されずキャンセリングが発生し深いフランジングが得られます。

テープ・コーラスとダブリング
10〜60msecのディレイが発生します。

スタジオで実際に行われていた方法: コーラスやダブリングは、タイムラグのゼロ地点を通過しないようにディレイタイムをやや長めに設定します。接続方法は同じで、シンク信号が1台目のリファレンス・デッキから2台目のタイムラグ・デッキに送られています。コーラスは2台の間のタイムラグが10~30msで、マニュアル操作によるデッキのスピード変化でディレイタイムを変化させ、モジュレーション効果を加えます。ダブリングは2台間のタイムラグが40~60msで、スピード変化によるモジュレーション効果は必要に応じて使用します。

タイムラグ・デッキの位相を反転させると、低域に大きな違いが感じられます。どちらの位相状態が適切かは、使用する音素材によって決定します。

ステレオ・スプリット・エフェクト
ダブルトラッキングのテクニックは、2台のデッキを図のように接続し、モノラルトラックからステレオ効果を作り出します。原理は上記の例と同じですが、1台の出力は左チャンネル、他の1台は右チャンネルに接続します。左右の音声は、電気的にミキシング・コンソール上でミックスされず、空間内で聴覚的にミックスされます。この方法は、コムフィルターによる信号の増幅や位相キャンセルの影響を受けないため、音の反射などが影響した立体的な効果が得られます。 2台のタイムラグがゼロの場合、タイムラグ・デッキのスピードを僅かに変化させる事でパンニング効果を2チャンネル間に作り出します。タイムラグを増やすと、広がりの大きいステレオ・コーラスになります。さらにタイムラグを増やすとナチュラルなダブリングになり、スラップ・ディレイへと変化していきます。

タイムラグもモジュレーションも無い場合、タイムラグ・デッキの位相反転スイッチはチャンネルの位相スイッチとなります。位相のずれたキャビネットやスピーカー、アンプ等を複数接続した際に非常に有効に使えます。2台のタイムラグが長いと、位相反転スイッチがサウンドやステレオイメージに及ぼす影響は小さくなります。