今回は、ともに40年以上のキャリアをお持ちのレコーディング・エンジニア、吉田保さんと梅津達男さんにお話を伺うことが出来ました。山下達郎さんをはじめ、数々の日本のポップス史を今も支え続けておられる両氏に、“大ベテラン”ならではの視点でマイクロフォンに対する造詣を語って頂きました。
まずは、お二人の長いキャリアの中で、使ってこられたマイクロフォン遍歴を教えていただけますか?
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僕はスタートがビクターだったので、入った当時の何にでも使えるマイクはノイマンM49CとM269だったんです。後はSONY C38。1970年くらいに青山のスタジオが出来て、そのときにスタジオが49と269を30本ずつとか大量に買ったんですよ。それらを使ってきましたね。49はざらっとした感じで、中域がしっかりしていて実体がある音色というイメージで好きですね。だけど、本体が重くて扱いにくいマイクだったんで、パッと立てるには(9V電池で動く)C38Aのほうが便利だったんです。当時はコンソールにファンタム搭載がなかったんで、コンデンサーと言えばチューブマイクが定番で、そこに9V電池で動く国産の38があったんです。 |
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僕の場合はU67。当時の東芝も大量の269を買ってて、49と269もありました。(その中から)すごく無難な所で僕は67。何にでも使えるし、キャラクターもないし…。録ってからちゃんとしたEQでポイント付けてキャラクターを作れば、それなりの音になるから使いやすかったんですよ。そういう意味で、僕には67が定番マイクになってましたね。 |
U87は使われなかったんですか?
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ビクターでは、87をあまり買わなかったんです。何故かというと49とか269と比べると音の存在感が違っていたので…、艶っぽさもないし、高域が伸びた感じもなかった。87は割と中域が強くてあまり好んでは使わなかった。だけど、87Aiが出た時に87と音色がまったく違ってた。Aiだとリアル感が増したので、38に変えられるマイクかな〜っていう感じはありましたね。 |
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途中の「87i」ってのはノイマンの中でも異色だったよね。10kHzあたりにピークがあって、ざらつくガサっとした感じ。当時87iを聴いたとき「ノイマンじゃないんじゃないの?」って言いました。それで「87Ai」を作ったんじゃないかな? |

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我々は、最初からポップスをやったわけではなく、民謡とか純邦楽ものとか長唄とか、レコード会社として出す物は全て入ってくるんですよ。だから、マイクを選ぶというよりは、三味線とかを先輩が録ってる所を見て真似ていくんです。 |
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三味線にはベロシティーマイクがいいとかは、あのマイクは効率が悪いから、アタックが多少削れて上手く録れるんだなとか…は後から分かってくるんです。 |
| ナレーションはDX77で録れ。ベロがいいんだみたいな。 | |
| ウッドベースもベロみたいな…。 | |
| ストリングスにノイマン系の269、49とか使ってたんですけど、70年代後半ぐらいからは、新たに出てきたのがショップスですよね。 | |
| モウリスタジオとか221Bとかいっぱいあった。 | |
| うちには2本しかなかったです。弦とか録るとすっごく良い音しますよね。 | |
| 結局、我々にとっての定番マイクは、スタジオにあったマイクで使い慣れた物ってことですね。 | |
| 本当はコンデンサーマイクを立てた方がリアルな音が録れるんです。だけど、スピーカーから出す時、お皿になった時にアタックの音が逆に邪魔になってしまう時もあるんです。人間の声にしても、本当は子音とかある方が自然なはずなんだけど、会話してるとき最低1mぐらいの距離は離れますよね?その時に子音って気にならないじゃないですか? でも、それがマイクを通すと子音が気になんです。本当は音色の一部なのにノイズに感じてしまう。電気信号に変わるとノイズに感じてしまうんでしょうね。 | |
| 日本語は子音少ないよね。確かに、黒人の声の艶やかさとかは57でとっても良い声で録れるんですよね。 |

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人の声の場合は、まずは素のままで何処まで行けるかって思って録ってます。 ただ、コンプをかけると当然音色かわるので、そこでのEQ補正はします。プラス、まわりの楽器で背景が見えなくなった時に補正するんですが、基本的には元ありきで進めます。音って、ありのままをリアルに録ろうとするなら、最低30〜40cm離して録らないと駄目ですね。 |
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それ以上近づけるとピーキーになる。 近接効果で低域がもこもこするし。 |
| ほんとは近い音のはずなのに、なんかモケモケしたりね。本当は低音をすっきり録りたかったら、マイクを離せば良いんだけど…、反射音が入って来るから離すと離した音色になって当然距離感が出ちゃう。そこで、「反射音がマイクに入らない様に、デッドな所でちょっと離して録る」という工夫に繋がる訳です。とにかく、きちんとした音色をしっかり録っておくって事を目標にした方が良いと思います。 | |
| ドラム録りにはダイナミックの方が言いよっていうのは、基本的にピークが扱い安くなるから。「ドラムを録る時にも40cm離した方が良いんですよ。」って言ってもタムが2cmの隙間しか無い所に2つタムがある訳です。だから、タム1個づつを40cm離して録るって言うのは理屈にあわないし、あり得ない訳です。じゃあ、1本で2つのタムを録るのもありなんです。マイク2本だけでバランスの良い所を見つけて録るんですが、ただそれはその空間が録れるっていう距離感になる。音楽によっては欲しい音がもっと近い音の場合もありますから、そうすると、本当は5cmとか10cmとかの距離感の音色が欲しいってことになる場合に不向きなマイクもある訳です。そういうマイク選びもあると思います。 | |
| 87をオンマイクでドラムで録った事もありますよ。 ウィンドスクリーンをぼこぼこにされちゃうけど(笑) |
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| 何をイメージして、どう音を録るかを考える事が基本かなーと思うんですね。 |

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フラミンゴは昔のビンテージに音色は近いですよね。 それに対してWedgeは現代的な音をしていますね。レンジ狭く感じないし、下はナローにカットオフが入ってる様な感じがするし、アマチュアが使うならWedge。元がいい音に関してはフラミンゴがベストですね。 |
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フラミンゴはリアル感と存在感がすごいね。 49とかのざらついた感じに似ていて、低音もいっぱいあるんだけど、ウーリーじゃないっていうか…、顔の位置まで分かる感じがしますね。オンマイクでいける音色。49や87のノイマン系は、オンマイクにすると近すぎるなと思う音色があるけど、フラミンゴは近くても嫌らしくない。柔らかいけどしっかりしている…みたいな音がしてる。 |
| 心地いいよね。 | |
| レコーディングした後のテクニックに欠けるアマチュアには、ウェッジは凄く合うと思いました。フラミンゴ程の個性はないんですが、音の系統を受け継いでいるのが見えていて、それを誇張してあげたりすれば個性的な音にもできると思います。 フラミンゴに関して付け加えると、フラミンゴは近くても嫌らしくない。柔らかいけどしっかりしている…みたいな音がしていて、これならオンマイクでいける音色ですよね。顔の位置までもが分かる感じ。 |
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| ちょうど先日、フラミンゴで歌とチェロを録ったんですよ。フラミンゴって高低域にちょっとピークがあって、それがチェロに合うだろうと予想していたんです。他の楽器は第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンとビオラで、これはそれぞれ67で録りました。フラミンゴで録った音が浮くかなと思ったけど、ガシッとした音が録れて、それが他と上手く混じってくれたんで良かったですよ。 でも、フラミンゴを最初に買ってもアマチュアでは使いこなせないと思いますよ。存在感も個性もあるからね、良いマイクほど扱う腕がいりますね。それで幅広く引き出せる訳ですよ。 |
ステレオ・フラミンゴを使ってハープを録った時の話しをエンジニアの方に伺ったんです。ハーピストがプレイバックを聞いて「ここ取り直ししたい」って言われたそうです。何故?と聞いたら「指が湿った音がしてる…」と。
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特性的には違うけどBKのマイクに近いですよね。BKも指の動きまで分かるって感じで録れるから。特に弾いてる人は自分で指の動きまでわかるからね。僕らは分からないけど。 ハープにフラミンゴって良いでしょうね。合うと思うなー。 |
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歌にしても聞く人は声のざらつき感が良いなって思う時もあるけど、歌ってる本人はやだなって思って時もあるしね。 |
| 「ちょっとむせそうになっちゃったけど」って言うのも本人にしか分からないですよね。 |
一般の方にはあまりリアルな物は扱いにくいものですか?
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下手な人は本当に下手になっちゃいますよね。 良いマイク程、汚い声は汚い声になりますし。(金額もそうですけど)そういう意味でも、一般の方が使いやすいのは、ウェッジなんじゃないかな。フラミンゴとも音の方向性は似ているし、現代的な音でレンジが狭く感じないし、下は自然にカットオフが入っているような感じがするしね。 |

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一般の方が使いやすいのは、ウェッジなんじゃないかな。フラミンゴとも音の方向性は似ているし、現代的な音でレンジが狭く感じないし、下は自然にカットオフが入っているような感じがするしね。 |
Wedgeを試して頂くと、色気があるねって言われるんですよ。
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色気の部分は解りますよ。Wedgeは結構フラットに感じて、だから逆にオールマイティに使えて良いんじゃないかなって。だからコンデンサーマイク1本選びたいって時に、価格帯も考えると落ち着きやすいですよね。 |
| (色気に感じるのは)倍音の成分じゃないかな…。 | |
| あの、変な表現かもしれませんけど、ギターでもコーラスをかけるとちょっと色気があるように感じますよね?もちろんマイクにコーラスが掛かる訳じゃないけど、そういう倍音の乗り方がそういうニュアンスにちょっと似てると思いますよ。 | |
| ウェッジもフラミンゴも基本的な音色は似ていますよね。 | |
| ひょっとしたら歪みかもしれないですけどね(笑) まとめると、「出音が素晴らしい物にはフラミンゴを」、「扱いやすさを求めるならウェッジ」ということですね。 |
ところで、マイクとHAのコンビネーションって重要ですよね。バイオレットはインピーダンスが低いので、高い入力インピーダンスのHAだと個性が変わってしまいますよね。
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ハイ受けが増えましたからね。 マイクは接続するHAのインピーダンスで音変わっちゃいますから、その辺りも分かって色々試して欲しいですね。 |
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ちゃんとした卓は、例えば250オームラインの無負荷という事でハイインピーダンスにしているんだって。 基本的にはインピーダンスのラインとしては250オームに設計されていると思います。そこがターミネイトされていないんです。 |
| (入力のインピーダンスが変われば)ゲインも変わりますしね。周波数帯域によってもインピーダンス違ってくるから難しいんですよね。 |
今や、ラップトップにオーディオ・インターフェース、コンデンサーマイク買って…音を録る方が多い訳です。
| そういう方々にどうインピーダンスの説明をするかって…(笑) | |
| 大変だよー。インピーダンス論理って本1冊こんなんになっちゃうもん。 | |
| それ知ってるとどうなるのって言われちゃって…(笑) |
「インピーダンスでマイクの音色変わるんだよ」っていう話が出て来ましたけど、雑誌なんかで説明してあるのが難いと思うんです(笑)「コンデンサーマイク買ったのにあういう音しないんだろう?」と疑問に思っている方が多いんじゃないんですかね?
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本当はね、レコーディングをやる上で最低限の知識が無いといけないんです。 機材やアコースティック、録りの基本、論理を理解して、ちゃんと知った上で「フラミンゴを使うと、こういう音が録れるよ。」ってなる訳です。そういう意味で「アマチュアにはフラミンゴは使いこなせない。」って事も一部入っていますね。 |
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吉田 保(Tamotsu Yoshida) 1946年11月6日、埼玉県大宮市生まれ。 1968年、東芝EMI録音部入社。 1976年、RVC(現在BMGビクター)録音部入社。 1979年、CBS/SONY六本木スタジオ、チーフ・エンジニア。 1989年、(株)サウンド・マジック・コーポレーション設立。 2007年、(株)ミキサーズラボ。 ジャパニーズ・ポップスの歴史の中で名盤と呼ばれる作品を手がけてこられた著名エンジニア。サウンド&レコーディングマガジンのPro Toolsに関する連載では、ベテランならではの視点で具体的な手法を紹介されていました。山下達郎、竹内まりや、稲垣潤一、大滝詠一、吉田美奈子、浜田省吾、スクエアー、松田聖子、Kinki Kids、ゴスペラーズ等多数手がけられる。 写真提供:株式会社メディア・インテグレーション |
梅津 達男(Tatsuo Umetsu) 1949年12月18日、福島県郡山市生まれ。1968年、日本ビクター入社。1983年にフリーランスとして独立。その後サウンドバレイ、デルタスタジオを経て、現在はミキサーズラボに所属。 竹内まりや、高橋真梨子、夏川りみ、川井郁子、岩崎宏美、郷ひろみ、KAN、ソルティーシュガー、チェリッシュ、はっぴぃえんど、など錚々たるセッションに携わりジャパニーズ・ポップスの礎を築いてきた。近年は、日本ミキサー協会(JAREC)の理事長を務め、レコーディング・エンジニアの技術向上や地位向上にも尽力されています。 |