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シングルステージ vs マルチステージ・ゲイン・トポロジー

  • 2017年3月9日
  • strymon
シングルステージ vs マルチステージ・ゲイン・トポロジー

多くのクラシックペダルのゲイン回路は、シングル・ステージ・ゲイン・トポロジー(信号経路の一箇所)を採用しています。それらの回路には、インピーダンスを返還する入力バッファー、又は長いケーブルのシグナルロスを防ぐ出力バッファーが追加されますが、全てクリッピング(歪み)のステージは一箇所で行われています。Sunsetは、ブーストやオーバードライブを広くカバーできる6種類の異なるクラシック・トポロジーを網羅しました。

それに対し、カスケード・マルチゲイン方式はハイゲイン・チューブアンプのプリセクションで見られます。シングル・ステージとは異なり、ゲインとクリッピング(歪み)は、低いゲインのステージを直列に重ねて繋げることで生み出されます。このように数段のゲインステージを分けることで倍音構成が複雑になります。このタイプでは、ゲインとフィルタリングのコンビネーションがデザインのキモになります。Riversideでは、このプリアンプのドライブトーンを広いレンジで実現できる『カスケード・マルチステージ・トポロジー』を用いています。


クリッピング方式とサウンドの違い

FET ブースト
ブーストとは、歪みの有無にかかわらずゲインを追加することです。ボリューム・ブーストは繋ぐアンプの入力段をドライブします。一般的にブーストは、JFETトランジスターを使用したハイ・インピーダンス、ローゲイン、マイルド・クリッピング(歪み)の機能を備えたものがブースト(ブースター)として望まれます。ゲインステージのリニアリティーを超えることによって、信号の歪みは発生します。

ソフト・クリッパー
ソフト・クリッパーとして知られる、最も一般的なオーバードライブ回路トポロジーです。概して、OPアンプやBJT(バイポーラ・トランジスター)がゲインステージに使われ、ゲインステージの帰還パスのダイオードでクリッピング(歪み)を発生します。低域周波数はゲインステージ前でフィルターされ、高域はゲインステージの後でフィルターされます。その結果、トップエンドがスムーズで、中域を押し出したようなサウンドになります。

この方式では、入力のトランジェントは出力まで保たれます。より力強くプレイすると歪み信号により多くのハーモニクスが加わりますが、信号はラウドにはなりません。この場合も大きな入力信号はクリアなダイナミック・ピークとしてサウンドに反映されます。Sunsetの『Texas』はこのトポロジーを採用しています。

ソフトクリッピングを生み出す他の方式は、ハード・クリッパー・トポロジーによる歪んだ信号と、入力からのドライ信号とをミックスするものです。回路図からも分かる通りDriveを上げて歪みが増えると、ドライ信号のミックスも上がりダイナミックに反応するように調整されます。Sunsetの『Ge』タイプはこのトポロジーが採用され、ローミッドが強調されるボイシングに仕上げられています。

ハード・クリッパー
ハード・クリッパーは多くのディストーション・ペダルに見られます。クリッピング・ダイオードはゲインステージの出力に接続され、信号のピークをズバッと「切り取り」ます。一般的に、ディストーション・ペダルはオーバードライブ・ペダルよりもゲインが高めです。しかし、基本的な違いは、入力される信号を如何にハードにクリップさせるかにあります。トランジェント信号を出力せず、高い信号にはより多くの倍音を加えるように働きます。この動作がソフト・クリッパーとは異なり、よりハードに弾くと太く歪み、入力からのダイナミクス(弾き手のダイナミクスの変化)に鮮明に追従するプレイフィーリングとは大きく異なります。

フィルタリングの方法はオーバードライブ(ソフト・クリッパー)と同じです。ハイゲイン設定ではタイトなサウンドに仕上げるために、低域はより積極的に削られます。また、高域は倍音が増え密度の濃いトップエンドの歪みが生まれます。低域フィルターを広くする(カットする低域を減らす)とファズのようなルースなサウンドになります。高いゲインレンジはギターボリュームでドライブがコントロールできます。ハード・クリッパーのペダルは十分な倍音がそれから生み出されるため、クリーンなトーンとの組み合わせをお勧めします。Sunsetの『Hard』タイプは、このタイプのサーキットがベースになっていますから、マイルドからハードまで非常に広いゲインレンジをカバーできます。

2ステージ回路
もう一つのトポロジーは、ソフト&ハード・クリッパー(オーバードライブとディストーション)を組み合わせたタイプです。伝統的なソフト・クリッパーのクリアなトランジェントとダイナミクスのある信号をハード・クリッパーにつなげます。2つの歪みを生むクリッピング・ステージがありますが、ゲインはシングル・ステージです。これら2つのコンビネーションは、回路設計によってダイナミクスと歪み方が異なります。Sunsetの『2-Stg』タイプは、この万能トポロジーに十分なゲインステージを組み合わせました。

マルチステージ・ゲイン
シングル・ゲインステージで使われるOPアンプやトランジスターは、ゲイン・ペダルで必要な値よりはるかに高いゲインを生み出すことができます。それらのゲインステージは、必要なゲインを帰還回路の抵抗で調整しています。典型的なブースト・ペダルは20dB、オーバードライブは40dB or 50dB、ディストーションは60dB or 70dBのゲイン増幅率を備えています。

プリアンプ・チューブはOPアンプのゲイン増幅率より遥かに低いため、高いゲインを生み出すために数段をカスケードする必要があります。これは、伝統的なチューブアンプを改造して、ハイゲイン・アンプにするアプローチから始まりました。カスケード・チューブ・ステージは、各ステージで徐々に歪んでいく過程で、複雑な倍音構成が生み出されます。抵抗とコンデンサーの組み合わせでゲインや周波数レスポンスが決められ、信号は次のステージへ送られていきます

チューブ・プリアンプのクリッピング(歪み)は、正負の歪み具合が同一ではない非シンメトリーです。信号は各段で反転されるため非シンメトリー歪みが混じり、バイアスレベルで信号が馴らされて、トランジェントを保ちながらサスティーンの効いたディケイを有するサウンドが生まれます。

Riversideのマルチステージ・トポロジーでは、4段のカスケード・ゲイン・ステージを採用し、異なるレベルのドライブと倍音構成を生み出しています。1段目のステージはClass A JFET、次の3段はチューブ・プリアンプと同じ方式(DSP内のプロセッシング)を行っています。Riversideのサーキット・チューニングは、Driveコントロールノブの設置位置によって、クリーンからサチュレーションまでチューニングの回路要素を複雑に変化させています。


終わりに
シングルステージ・ゲイン・トポロジーは、ブースト、オーバードライブ、ディストーション、それらのペダルトーンを生み出すために採用されてきました。それに対し、マルチ・カスケード・ゲイン・ステージは、クリーンからヘビーなディストーションまで、チューブ・スタイルのプリアンプ・トーンを生み出すために使われてきたわけです。